Inspiration
ゆきあいの空
2020.09.01芙蓉や百日紅の花が、涼風に揺れる晩夏。
空を見上げれば、流れる雲にも季節が映る。
青空に浮かぶ真っ白な入道雲は、雲のヒマラヤの如く。
輝くその峰は、風に流れて刻々と姿を変えていく。
空高くには、入道雲に混じり合うように、
刷毛で掃いたように伸びやかな線を描く巻雲(けんうん)や、
魚の鱗や水面のさざ波のように見える鱗雲など、
秋を告げる雲が姿をあらわす──。
夏雲と秋雲が行き交う、
この時季の空のことを「行き合いの空」と呼ぶ。
季節の狭間にあるこの時季にしか見られない
儚げな空の情景を表した、日本の風情あふれる美しい言葉。
行き合いとは、つまり出会いのこと。
二つの季節が同じ空で出会い、過ぎ去る夏から来たる秋へ、
バトンを託すように、静かに巡っていく。
「夏と秋と 行きかふ空の 通ひ路は かたへ涼しき 風や吹くらむ」
古今和歌集の夏歌の最後では、
空には夏と秋が行き来する季節の通り道があり、
秋の道にはすでに涼風が吹いているのだろう、と詠んでいる。
古の人も、厳しい夏がようやく過ぎ去ることへの安堵と少しの寂寥感とともに、
来たる秋へと想いを馳せ、行き合いの空を眺めていたのだろう。
燦々と照りつけていた真夏の太陽が西に沈めば、
ヒグラシの声がわき立つ、夏と秋のあわい──。
この時期ならではの風雅な情景を味わいたい。
Image & words by Airi Kitabo