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Interview

木の温もりが育むもの

2021.11.01
木の温もりが育むもの

2021年11月、SIRI SIRIより新しいブランドが誕生します。「SIRI SIRI famille(シリシリ ファミーユ)」。フランス語で「家族」を表す名が表す通り、SIRI SIRIのプロダクトをご家族で楽しんでいただけるシリーズです。

第1弾として発表するのはベビートイ。ラトル、歯固めなど定番のベビーアイテムを、SIRI SIRIのジュエリーをモチーフにしたデザインで作りました。ご協力いただいたのは、日本の熟練の木工職人の方々。職人さんにお渡ししたのは、実際のSIRI SIRIのジュエリーのみ。詳しい図面も模型もありません。そこから彼らが、これまで培った豊かな経験をもとに、どうしたらSIRI SIRIデザインのベビートイを実現できるのかを試行錯誤しながらも、ひとつひとつ丁寧に仕上げてくださいました。発売を記念し、今回のベビートイを手がけてくださった木工作家のお二人にお話を伺いました。

木とり舎・木下直樹さん

木を素材にしたSIRI SIRIのベストセラー<WOOD collection>。2009年より続くこのコレクションの人気アイテムが<APPLE>です。耳元で揺れる可愛らしい小さなリンゴは、挽物職人によるミリ単位の繊細な技術から生まれています。今回この<APPLE>が赤ちゃん用のラトルになりました。滑らかな木の手触りは小さな手にも握りやすく、振るとカラカラと優しい音がします。手がけてくださったのは木工職人の木下直樹さん。神奈川県相模原市で、ご夫婦で工房「木とり舎」を運営し、おもちゃや木製雑貨、ウォールクロックなど優しい雰囲気に溢れた作品をたくさん手がけられています。

 

 
工房は相模原市の緑豊かな山間にあり、お隣の果樹園では栗が豊かに実っていました。工房には挽物機械がずらりと並び、その隙間に木下さんが「空き時間に作った」という小さな木製アイテムがポツポツと置いてあります。鉛筆一本を立てるスタンドだったり、動物を象ったネームプレートの試作品だったり。その全てがまるで小さな妖精たちのように表情があり、アトリエ全体を優しく包んでいます。

 

 
ベテランの職人さんの中には、普段得意としている生産ラインから逸脱するものは作らない、という主義の方もいます。でも木下さんはSIRI SIRIジュエリーだけをヒントに、すぐにプロトタイプを仕上げてくださいました。今回SIRI SIRIの<APPLE>をラトルにというリクエスト、最初はどのように思われたのでしょうか。

 

 
「新規のお仕事ですし、珍しい案件ですが、なんとかなりましたね。これはデザインがすでに完成しているので、あとは細かいチューニング技術の見せ所で。メープルの木をくり抜いて赤ちゃんが持てるくらいの重さにし、振ると中に仕込んだ木片がカラカラ心地よい音がするようにしてあります。やってみると、これが正直言って結構難しかったです。チャレンジでしたね。でも、26歳で木工を始めて、独立して食べていくなんて無理だと周りに言われながらも、なんとか工房をやってきました。うまく言えないですが、クライアントに合わせた利益重視の仕事ばかりしていると、急にこんなオーダーが来てもなかなか作れないと思うんです。その意味では積み重ねてきているところもあるので、幸いなんとかご要望に応えられたかなと。長く使っていただけるといいなと思っています。」

 


一昔前まで東京にも大きな工作機の見本市があって、木工職人のコミュニティも盛り上がっていたけれど、今はどんどん職人の数も淘汰されているといいます。木工機械メーカーも製造中止が相次ぎ、中古の機械はどんどんアジアに流れていっているそう。「日本には大量に安価のプラスチックのおもちゃがあり、木のおもちゃを作ることをやめていく職人もたくさんいます。効率は悪いですからね。」

それでも作り続ける。木下さんが木でできたおもちゃに込めた願いとはどのようなものなのでしょうか。

 
「子供って触った感じの気持ちよさとか、握りやすさとか、とても素直に反応しますよね。僕の子供も、複雑なおもちゃじゃなくても、電子音がしなくても、僕が工房の木片を使って作ったブロックで何年も遊んでいました。目には見えないそんなところがいつか心に響いてくれれば、そんなことを考えます。デジタル化の中でモデリングでおもちゃを作ることはたやすく、講師をしていると工具の基礎を知らぬまま簡単にプロダクトを作る若い生徒もいることを知ります。だけど木工の基礎、工具の原理を知り、その技術を自分のものとした手が生み出すモノには、即席では生まれない何かが備わっていると思っています。」

 

 


日本では量販店にいけば安い素材の大量生産されたおもちゃが目につきます。でも丁寧にきちんと作られたおもちゃであれば、職人さんが込めた思いに触れることができ、また赤ちゃんが大きくなっても、置いておくだけで可愛らしく、小さな手が触れた記憶が詰まった大切なオブジェになります。

コロナ禍で全国の展示会が中止となり、お客様との直接のコミュニケーションが減りました。しかし販売サイトやSNSを通して、ファンの人々とオンラインで繋がったり、オーダーが来たりと違った形でのコミュニケーションが増えたといいます。「吉祥寺でショップをやっていたので、Instagramも手作りサイトも、また別の形のお店なのかなと思っています。デジタルに触れる日常の中で木のアイテムに触れたり、ふと目に入ったりすることでホッとしていただけたら」と語ります。

とはいえ、日本各地の様々なイベントで開催していたワークショップではデモ用の木工機械から目を離さない子供たちのキラキラした目を見ることができたりと、かけがえのない機会であったこともあり、早く交流の機会が戻るといいなと感じています、と語ってくれました。オーダーのほか、ユーモアと優しさに溢れたご自身の作品も次々と発表されている木下さん。「作りたいものはまだまだたくさんあって、順番にやっていこうと思っています。」と話してくれました。



木とり舎・木下直樹さん website
SIRI SIRI famille Rattle APPLE

atelier-fu・宮崎剛さん

もう一人、今回のベビートイを手がけてくださったのはatelier-fuの宮崎剛さん。東京・日本橋を拠点に、木のおもちゃを手がけられています。「思わずニッコリしてしまう姿や心情」をモチーフにした積み木やラトル、ガラガラ、ベビートイなどの作品にはどれも可愛らしい笑顔が。笑顔になってほしいという気持ちと、笑顔だけじゃなくていろんな感情があるよね、という思い。子供が指先から、目から、様々な情緒のひだを育むようにという想いが込められています。

 


日本橋は古くから続く職人工房も多くあり、人情あふれるエリア。その一角にある住居と工房が一体となったアトリエは、こじんまりとしてストイックな印象です。ここで今回の歯固め<COMPOSITION>の3種が生まれました。



幾何学的なシェイプが特徴的なSIRI SIRIの<COMPOSITION Collection>。2014年から続くコレクションの中でも人気なのが、動物の骨からインスピレーションを得て生まれたイヤーカフ。今回は高品質な国産アクリルで作られる<MOC MOC><DROP><Phantom>の3種が、木のおもちゃになりました。赤ちゃんが握ったり口に入れても大丈夫なように、適度なサイズ感と角のない滑らかな触りごごちが求められます。ジュエリーの現物をお渡しし、宮崎さんは経験を元に美しい形に仕上げてくださいました。

 


「糸鋸で板から切り出していく切り抜きのあと、磨きのプロセスにとにかく一番時間がかかります。単純なリング状ではなく曲線が特徴的なので、そこを正確に表現しつつ滑らかにするには、とにかく磨きながら見て、触って、感覚を研ぎ澄ませながら仕上げていきます。」

立ったままひたすら何時間も丹念に磨く作業。そうして生まれるなめらかなカーブの優しい丸みは、大人にとってもすべすべと気持ちが良い手触りです。



普段はご自身の作品や、オーダーを受けて制作をされているという宮崎さん。「最初は自分のアート作品を作るための木工工房を立ち上げて、アートの一つとしておもちゃ作りも始めたのですが、好評をいただいて徐々に商品化・量産化して来ました。本当はいつかアートだけやりたいななんて思っていますが、今はもっぱらおもちゃが多いですね。木のおもちゃが好きですし、機能や形も安全な良いものを作っているという自信があります。展示会や卸で販売していますが、大多数の方がお友達やお孫さんへのプレゼントに、と買って行かれます。子供のおもちゃは安全性が大切。舐めたり噛んだりして遊ばれることを前提に、怪我がないように、すごく気を遣っています。」ユーザーのことを第一に考えるという配慮と熱量の掛け方。赤ちゃんの手に収まるほどの小さなおもちゃですが、家具やジュエリーと同じくらいの愛情が込められています。




プロジェクトの半ばで、実は偶然SIRI SIRIデザイナーの岡本と知り合いだったということが発覚。「異業種であるジュエリーブランドからの依頼は初めてですし、SIRI SIRIさんじゃなかったら断っていたと思います。でも岡本さん(のブランド)とは知らずにオーダーが来た時に、まずデザインが素敵だなと思ったんです。こういうジュエリーを発表しているブランドと一緒におもちゃ作りに取り組めるのは嬉しいな、と素直に思いました。職人技術は表に語られることが少ないのですが、それをきちんと伝えてもらえるのではないかなと思って、お受けすることにしたんです。そしたら10年ほど前に仲が良かった岡本さんのブランドだったんだ、ということに気づいて。縁を感じました。」



比較的若い世代の宮崎さんですが、それでも木工職人の数の減少は感じているといいます。「メインが家具制作で、その端材を用いておもちゃを、という方はいらっしゃっても、木のおもちゃだけメインでやられている職人は本当に少ないです。自分は我慢強いのが取り柄なので続けて来れましたが、職人はしんどい世界。だけど、続けていきたいと思っています。今回こうやってSIRI SIRIさんと一緒にやれたことで、木のおもちゃの良さが広く伝わる機会になったらいいなと思っています。」と語ってくれました。



工芸の国、日本に暮らす職人の手によって丹念に仕上げられたプロダクトを届ける。SIRI SIRIが理念としてきた大切な原点です。SIRI SIRIのユニバーサルなデザインと職人技術が出会って生まれたアイテムをより幅広い世代の方に楽しんで欲しい。そんな願いから、今回のベビートイの開発へと繋がりました。今回ご協力いただいた二組の職人さんからは、職人技術を育む厳しさと製品へのこだわり、そしておもちゃを手に取る子供たちの笑顔を知るお二人ならではの、優しい愛情を受け取ることができました。

木のおもちゃと、それを支える日本の職人技術。「SIRI SIRI famille」のベビートイが、赤ちゃんを笑顔にするだけではなく、守りたい文化を伝えるアイテムとなることを願っています。

atelier-fu・宮崎剛さん website
SIRI SIRI famille Teether MOC MOC
SIRI SIRI famille Teether DROP
SIRI SIRI famille Teether PHANTOM

 

文  深井佐和子
写真 小野奈那子

木の温もりが育むもの

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